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田中芳樹 著
アルスラーン戦記04巻『汗血公路』
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【ネタバレあり】アルスラーン戦記04巻『汗血公路』レビュー【小説/完結/田中芳樹】
第04巻『汗血公路』 1988年
第一章 東の城、西の城
アルスラーンが発した檄文によって、ルーシャン・ザラーヴァント・イスファーン・トゥースなど、パルス各地の諸侯(シャフルダーラーン)や領主たちがペシャワール城へ馳せ参じた。元々の兵力を合わせた総数は、実に110,000名。大幅に勢力を拡大したアルスラーン軍は、王都エクバターナ奪還に向け、着々と準備を整えていた。
ザラーヴァント・イスファーン・トゥースの16翼将3人組と、ルーシャンが登場。3人組はもちろん優秀だが、武官に比べて文官の層が薄いアルスラーン戦記において、内政を安心して任せられるルーシャンの存在は、地味ながらも非常に大きい。
一方、ザーブル城に立て籠もる大司教ボダン及び聖堂騎士団(テンペレシオンス)討伐の指揮を執っていたヒルメスは、万騎長(マルズバーン)の中でも攻城作戦が得意であったサームの働きにより、無事ザーブル城を陥落せしめた。しかし、惜しくもボダンを取り逃がしてしまう。。辛うじて命を拾ったボダンは、再起を図るべく西方マルヤム国を目指し逃走。マルヤムに残っているルシタニア軍を傘下に収めようと目論んでいた。
嫌なキャラクターほど、しぶとい。ボダンが死ぬのはまだまだ先の話…。
第二章 内海からの客
パルスの北西、ダルヴァンド内海のほとりにあるダイラム地方。ナルサスの元領地であるこの地に、一艘の船が流れ着いた。マルヤムの王族、イリーナ内親王である。イリーナはルシタニアに征服されたマルヤムを再興すべく、隣国のパルスへ助けを求めにきたのだ。しかし運悪く、ルシタニア軍ルトルド侯爵の偵察部隊300名に見つかってしまう。。
良くも悪くも純真な盲目の姫、イリーナ登場。ヒルメスの恋人。
逃げまどう村人やマルヤム人たちを殺戮し、思うがままに欲望を満たしていたルシタニア軍。そこへ、道に迷ったクバードと、妹のアルフリードを探していたゾット族族長代理メルレインが現れ、ルシタニア軍を一蹴する。ひょんなことから知り合いとなった二人は、生き残った村人たちと協力し残存兵を壊滅させることに成功。犠牲者は出たものの、村に再び平穏が訪れた。
自称パルスで二番目の弓の名人メルレイン登場。愛想は無いが、妹思いの良い兄貴。まあ、ギーヴとファランギースが居る時点で3番目以下は確定なんだけど(苦笑)
ヒルメスに会いたいという願いを吐露したイリーナに対し、メルレインが同行を買って出た。クバードは一人気ままな旅を続けることとなり、二人はそれぞれの方角へ歩み去ったのであった。。
これで16翼将のうち13名が登場。一気に増えた。
第三章 出撃
魔導士の一人サンジェがペシャワール城に侵入。城に火を放ち、混乱に乗じてヴァフリーズからの密書を盗もうとするも、ギーヴにより切り捨てられる。見事な活躍をしたギーヴであったが、アトロパテネの折に捕虜となったシャプールを射殺した件をイスファーンに話したところ、イスファーンが激高。互いに剣を抜く決闘沙汰へ発展してしまう。シャプールの弟であるイスファーンとしては、兄を射殺したギーヴを許すことが出来なかったのだ。アルスラーンとファランギースの仲介によって場は収まったものの、ギーヴは窮屈になったと言い捨て、城から出奔。アルスラーンのもとから姿を消した…。
射殺はシャプールの希望通りだったからギーヴは一切悪くないんだが、弟としては気持ちの整理がつかないのかもね。
あまりの事態に茫然となるアルスラーンであったが、実はギーヴの出奔は芝居であり、ナルサスの密命を受け、パルス各地の偵察に赴いたことを知らされる。
ギーヴは作者的に動かしやすいキャラだから、全編を通じて活躍し続ける。その活躍ぶりはある意味ダリューンやナルサスすら上回っていて、一番と言って良いかも。しかし…武将でも何でもない20代前半の若者なのに、剣も弓も顔も一級品って…どういうことなんだか(苦笑)
春から初夏へと季節がうつろい始めたころ、アルスラーンは95,000名(騎兵38,000名、歩兵50,000名、輸送隊7,000名)の兵を引き連れペシャワール城を進発。陽光を受けた甲冑と刀槍の群れが、大陸公路を埋め尽くした。
第一陣を率いるザラーヴァント・イスファーン・トゥースの騎兵10,000名がルシタニア軍と接敵し、功を焦るザラーヴァント・イスファーンが部隊を突出させる。他部隊との連携を欠いた動きをルシタニア軍につけこまれパルス軍が危機に陥るも、トゥースの冷静沈着な統率により、何とか全面敗走を回避。更にダリューンらの別動隊が死角から急襲し、初戦はパルス軍の快勝で幕を閉じた。
ナバタイ国仕込みの鉄鎖術が炸裂。トゥースは落ち着きがあって良い。
因みに今回のパルス軍は、第二陣はダリューンの騎兵10,000名・第三陣はアルスラーンの本営20,000名(騎兵5,000名、歩兵15,000名)・第四陣はキシュワードの騎兵10,000名・第五陣はシャガードの歩兵10,000名・第六陣はルッハームの歩兵20,000名・ファランギースの遊撃隊が騎兵3,000名という厚い布陣。銀河英雄伝説の「ラグナロック(神々の黄昏)作戦」を思い起こさせる。
第四章 汗血公路
シャフリスターンの野において戦いの前の祝祭「狩猟祭(ハルナーク)」を行っていたパルス軍が、偶発的にルシタニア軍の部隊と遭遇。乱戦のさなか、ダリューンは襲い掛かってきた少女エトワール(エステル)を捕虜とする。ナルサスのとっさの判断により、そのまま次の攻略地点である聖マヌエル城を攻め落としにかかるパルス軍。圧倒的な戦力差にルシタニア軍は耐えきれず、城主のバルカシオン伯爵は自害。第二戦もパルス軍が制した。
騎士見習いエステル登場。アルスラーンと同年の子供だから仕方ない部分もあるが、かなり視野が狭く、イアルダボート教を妄信している。ある意味被害者とも言えるが、身勝手な描写が目立つキャラクター。パルス・ルシタニア両軍の汗と血を大陸公路に染み込ませながら、アルスラーンは着実に王都エクバターナへの道程を進んでいく。
第五章 王たちと王族たち
暗灰色の衣の男「尊師」の勧めにより、ヒルメスは宝剣ルクナバードを手に入れるべくデマヴァント山へ向かっていた。パルス王国建国の始祖であるカイ・ホスロー愛用の剣、蛇王ザッハークを打ち倒したその剣を手に入れ、自身が王位に就く正統性の証にしようと考えたのだ。蛇王ザッハーク復活を目論む尊師としては、封印の鍵となっているルクナバードを外すことが叶い、パルスの地に更なる流血が流れる一石二鳥の作戦であった。
ヒルメスはプライドの高さの割に精神的に弱い部分があるから、すぐ尊師にそそのかされてしまう。ヒルメスとしては尊師を利用しているつもりだが、実際に利用される頻度が高いのは、圧倒的にヒルメスの側。
一方、愚鈍な兄王イノケンティスにうんざりしていたギスカールは、兄王をヒルメスに害させ、更にアルスラーンとヒルメスを共倒れさせるべく、地下牢(ディーマース)に繋いでいたパルス国王アンドラゴラスを利用しようと考えていた。しかし、面会のさなかアンドラゴラスが繋がれていた鉄鎖を引きちぎり、逆にギスカールを捕える事態に。半年にわたり囚われの身であったアンドラゴラスは、鎖に汗と小便とスープをかけ続け腐らせておき、千載一遇のチャンスを待っていたのだ。ギスカールを人質としたアンドラゴラスは半年分の怒りを爆発させ、その豪剣をもってルシタニア人たちを次々と流血の海に沈めていった。アンドラゴラスの凄まじい強剛さに戦慄するルシタニア軍は要求に応じ、甲冑や葡萄酒(ナピード)、そして王妃タハミーネをアンドラゴラスのもとへ届けた。夫婦の半年ぶりの再会である。
アルスラーン戦記04巻『汗血公路』 完
ルシタニア軍首脳陣はルシタニアの国柱がイノケンティスではなく王弟ギスカールと理解しているから、うかつに手が出せない。自由を取り戻したアンドラゴラスがこの後どう行動するか。。
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